ヨーロッパの国旗入門:十字架の意味

この記事ではヨーロッパの国旗に十字架デザインが多く使われている理由について解説しています。宗教的背景、歴史的経緯、地域ごとの文化的伝統などに注目し、十字架が象徴する意味について詳しく探っていきましょう。

ヨーロッパの国旗に「十字架」が多い理由

 

ズラッと並んだヨーロッパの国旗を眺めていると、「十字架」が意匠に取り込まれている旗がめちゃくちゃ多いことに気が付くと思います。スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スイス、イギリス……などなど、ほんとに十字だらけ。

 

なんでそんなに十字架が好まれるんでしょうか?

 

もっと独自性だせばいいのに・・・と感じる人もいるかもしれませんが、これにはちゃんとした歴史的背景があるんです。ここでは、その理由をわかりやすくひもといていきましょう。

 

 

国旗が十字架の国一覧

北欧十字(スカンディナヴィア十字)

デザイン 特徴
デンマーク 赤地に白の北欧十字。世界最古の現役国旗で、十字旗の元祖。
スウェーデン 青地に黄色の北欧十字。青と金は王家の色を象徴。
ノルウェー 赤地に青白の十字。デンマークとスウェーデンの影響を融合。
フィンランド 白地に青の十字。雪と湖の国を象徴。
アイスランド 青地に赤白の十字。ノルウェー由来の派生デザイン。

 

中央十字・聖人の十字

デザイン 特徴
スイス 赤地に白の正方形十字。中立・人道の象徴で赤十字の由来。
ジョージア 白地に大十字+小十字×4。エルサレム十字に由来。
イングランド 白地に赤の縦横十字。聖ジョージ(守護聖人)の十字。
スコットランド 青地に白の斜め十字。聖アンドリュー(X字の十字架)を表す。
北アイルランド(旧旗) 白地に赤の斜め十字。聖パトリックの十字。

 

ユニオンジャック形式(重ね十字)

デザイン 特徴
イギリス 聖ジョージ・聖アンドリュー・聖パトリックの十字を重ねた旗。
オーストラリア※旧イギリス植民地 ユニオンジャック+星(南十字星)を併せ持つ。
ニュージーランド※旧イギリス植民地 ユニオンジャック+赤縁星の南十字星。
フィジー※旧イギリス植民地 水色地にユニオンジャックと農業・動物の国章。
ツバル※旧イギリス植民地 水色地にユニオンジャック+島を表す9つの星。

 

その他

デザイン 特徴
ギリシャ 青白9本の横縞模様に白十字。正教会と自由を象徴。
マルタ 白と赤の縦二色旗。左上に大戦中の勇敢さを讃えるジョージ十字。

 

十字架が多いのはなぜ?

ヨーロッパの国旗に十字架が多いのは、キリスト教という信仰と王権神授説という思想が、古くからヨーロッパに根付いていたことが背景にあります。

 

キリスト教の影響がとにかく強かった

ヨーロッパの歴史って、キリスト教なしでは語れないんです。十字架はキリスト教を象徴するマークで、「信仰」や「救い」のイメージがあります。
だから昔のヨーロッパでは、国の旗に十字を入れることで「自分たちはキリスト教国家です」とアピールしていたんですね。これはただの宗教心だけじゃなく、他国や自国民へのメッセージでもありました。

 

十字架で“正統性”を演出していた

中世のヨーロッパでは、王様の力も神さまの名のもとに支えられていました。「王権神授説」っていうんですが、ざっくり言うと「王様は神に選ばれた存在だよ」っていう考え方です。

 

 

この思想を支えるために、国のシンボルにも神聖さが求められたんですね。だからこそ、十字架を国旗に取り入れることで、「正義」や「神の意志」を感じさせることができたわけです。

 

北欧に広がった“横ズレ十字”

十字架モチーフの国旗の中でも、北欧諸国に特に多いのが「横にずれた十字」。いわゆるスカンジナビア十字ってやつです。このスタイル、実はある国の真似から始まったんですよ。

 

デンマーク国旗が始まりだった

世界最古の国旗って、デンマークの「ダンネブロ」ってやつなんです。赤地に白い横十字のシンプルなデザインなんですが、なんと13世紀にはすでに使われていたという記録もあるんですよ。

 

デンマークの国旗「ダンネブロ」

 

この国旗は「神が天から授けた旗」なんていう伝説まであって、まさに神聖さの象徴。そんなかっこいい旗があったら、周りの国も「あれ真似しよ」ってなりますよね。

 

兄弟みたいに増えていった

デンマークの影響を受けて、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランドと、北欧の国々が似たような横十字デザインを採用していきました。
色は国によって違うけど、形はおそろい。「オリジナリティに欠ける」と思う人もいるかもしれませんが、これは「文化と信仰でつながってるぞ」っていうアイデンティティの表れなんですね。

 

他の地域でも工夫された十字のデザイン

十字架が入ってるのは北欧だけじゃありません。例えばイギリスやスイスなど、西ヨーロッパでもちょっと工夫を加えた十字デザインが使われています。それぞれ意味があって、けっこう奥が深いんですよ。

 

イギリス国旗は十字架の“合体技”

ユニオンジャック」って呼ばれるイギリスの国旗、実は3つの十字が合体してできてるんです。

 

  • 白地に赤の十字はイングランドの聖ジョージ
  • 青地に白の斜め十字はスコットランドの聖アンドリュー
  • 赤い斜め十字はアイルランドの聖パトリック

 

それぞれの地域の守護聖人が十字で表されていて、「イギリスはひとつですよ」ってメッセージになってるんです。

 

イギリスの国旗

 

スイス国旗は十字架で中立をアピール

スイスの国旗は赤地に白い太めの十字で、めっちゃ目立ちますよね。これはキリスト教の信仰だけじゃなく、「中立と平和」の象徴としても使われています。
スイスは永世中立国として知られてるから、このシンプルな十字が「争わない国」ってイメージにつながってるんです。

 

スイスの国旗

 

現代では宗教色を避ける国も増えている

近世くらいまでは「十字=キリスト教=国のシンボル」という考えが強かったんですが、17~18世紀の啓蒙思想(=理性・科学・自由を重視する思想で宗教の権威を相対化した考え)の広がり以降、宗教的な色合いを避ける国も出てきて、それぞれの事情が国旗にも反映されてるんですよ。

 

フランスやドイツは政教分離を重視

フランスの国旗って青・白・赤の三色旗ですが、これはキリスト教とは関係ありません。革命で王様を追い出した背景もあって、「宗教と政治は分けよう」という考えが根づいているんです。
ドイツも同じように、近代国家として政教分離を重んじているので、国旗には十字のような宗教的モチーフは使われていません。

 

伝統を守るか、多様性に合わせるか

国旗って、その国の歴史や価値観がギュッと詰まったシンボルなんです。だから、あえて伝統的な十字を守り続ける国もあれば、新しい時代に合わせて宗教色を避ける国もある。
どちらが正しいってわけじゃなくて、それぞれが「自分たちらしさ」を表現してるって考えると、国旗ってけっこうおもしろいんですよね。